コダモンです(@kodamon)。
かれこれトータル15年以上海外で暮らしています。ドイツの大学を卒業して、4ヶ国語が話せるサラリーマンとして現在はドイツで働いています。
今回は、グローバル戦線で働くハーフのコダモンが「グローバルな人間とはなんぞや!?」という観点からグローバル人材について語ります。
『グローバルな人材』とは?
まず結論から。
グローバル人材は基本的に『育成するもの』ではありません!
日本企業の多くは社員をグローバルな人材に育てようと『グローバルビジネス研修』『異文化研修』などを社員にすすめますが、どれも付け焼刃(やきば)です。
一見イケそうでダメ
グローバルな人材の定義というのは人や組織によって様々ですが、日本の場合、会社によっては英語が堪能というだけで社員をグローバル人材として扱うところもあります。
一般的には、次のようなスキル・経験の持ち主がグローバル人材の指標でしょう:
- 国境を越えた異文化の中でも活躍できる人材
- 多国籍の人々と効果的にコミュニケーションできる人材
- 海外経験が豊かで国際社会の諸事情に精通する人材
では、なぜそのような人材を『育成』しないのか…? 順を追って説明します。
日本にグローバル人材が少ない理由
まず、『グローバルな人材』を語るにはその人の出自やこれまでの人生経験が大きく関係してきます。
その人物がそもそもグローバルな人間かどうか?
これだけで99%決まると言っても過言ではありません。
要するに、会社に在籍する社員をグローバル人材に『育成』するのではなく、当人がグローバルな人間かどうかで決まる!という事です。
育成以前の話
余談ですが、ドイツハーフの自分は日本で生まれ育ちました。片親がドイツ人である事以外は『グローバル』とはほぼ無縁のまま高校を卒業。
その後ドイツの大学に入学したのですが…。学校で6年間習った英語は通用しなかったし、実際に外国人とコミュニケーションをする機会もなかった当時の自分は周りの学生とのレベルの差に大変なショックを受けました。
ドイツの学生はみな当然のように公用語の英語を操り、多国籍環境の学校で教育を受けます。そんな彼ら/彼女らは20歳そこそこで既にグローバルな環境に適応するスキルや経験を身につけていたのです。
大きなアドバンテージ
この部分が残念ながら日本との違いで、日本ではインターナショナルスクールにでも通わない限り日常的に多文化に触れる事が難しく、そのような環境が日本にグローバル人材が少ない!という背景になっています。
そして、新卒一括採用で入社した若者のほとんどが海外に触れる機会の無いまま社会人生活をスタートさせて、会社で日本の働き方を容赦なく叩き込まれる。
職場で先輩後輩の人間関係や慣れない長時間労働に疲弊しつつ、必死で仕事を覚える若者たち。そのまま勤続数年を経て立派な『日本の社会人』となります。
しかし…。その頃にはもう”時すでに遅し” 。
グローバル人材に育成するためのキャパシティは残されていないのです。
日本企業でグローバル人材は育たない?
多くの日本企業はグローバル人材の確保に必死です。
「グローバル人材が育成できない」「グローバルな人材の獲得が難しい」といった話もよく耳にします。
かくいう自分も、ドイツ語と日本語が母国語のバイリンガルとして日本企業から『グローバル人材』という括りで中途採用された過去があります。
海外勢と渡り合うために語学が堪能なのは『当たり前』です。実際のビジネスの現場では英語のスキル以上に異文化コミュニケーション能力や海外経験などが問われます。上手な英語を話す人ではなく、ビジネスシーンに応じて効果的なコミュニケーションが可能な人材が求められるのです。
そんな中、日本企業で社員をグローバル人材に育成するのは難しい。日系の大手上場企業に実際に4年半勤めた経験から言えます。
その理由は、次のような根本的なものです:
- 残業や休日出勤などの長時間労働
- 社歴や先輩後輩の上下関係と複雑な職場の人間関係
- 日本の会社で『日本的』に働く事が求められる
これらの要素が、次のような制約をもたらします:
- 新しいソフトスキルを身につける時間も余裕もない
- 外国人とのビジネスに必要な柔軟な思考・行動を妨げる
- 在籍する会社の常識やルールで思考が固まり視野が狭い
日本企業で「当たり前」とされる慣行や仕組みは世界的に見て非常に独特であり、そもそも日本の働き方をベースにグローバル人材を育てる事が難しいと言えます。
実際そう感じた
日本の働き方をみっちり経験して『日本人の考え方』や『本社の考え方』から抜け出せない人間は、グローバル人材として育成される余裕・余力が無いケースが多いのです。
グローバル人材は相変わらず不足している
総務省のデータによると、グローバル人材が圧倒的に不足している事実が浮き彫りになります。
2015年に行われた意識調査では、海外進出している日本企業およそ4,900社(有効回答数980社)を対象にした『グローバル人材の確保状況』の調査結果が出ています:
(総務省,グローバル人材の確保状況等に関する企業の意識調査,2020年7月時点)
また、同じく総務省が公開している『日本人の海外留学の促進』に関する評価の結果からも、グローバル人材に欠かせない海外経験の少なさが伺えます:
(総務省,グローバル人材育成の推進に関する政策評価,2020年7月時点)
国はグローバル人材育成のために大学生などを積極的に留学させる計画的な政策を推し進めましたが、調査の結果、その半数以上が1ヶ月未満の短期留学だったのです。
言うまでもなく、たった1ヶ月にも満たない留学や海外滞在では何も学べません。
ただの旅行
評価結果に基づく勧告の中でも、このような短期留学がグローバル人材の育成に対していかなる効果を持つのか「十分な検証が必要」としっかり書かれています。
“企業側は、語学力、異文化理解、多様な価値観の受容の各能力の涵養という面から、6か月以上の留学期間が必要との認識であり、ミスマッチが発生”
日本では、入社前の大学等に在籍した状態ですら海外経験を積む機会が乏しく、新卒で入社した先でもグローバル人材になるための十分な『教育』や『環境』がなかなか得られない。
結果として、社会人のグローバル人材が不足するのです。
日本企業が求める「グローバル人材」とは
ここまで読んで、「ちょっと待て…」と言いたい人もいるでしょう。
「俺は海外営業としてこれまで何件も商談をまとめてきた!」
「私は得意な英語で海外の取引先ともスムーズにコミュニケーションができている!」
そうやって息巻く人もいるかもしれません。それはそれで素晴らしい事なので、「自分は例外!」と思っていただいて結構です。
しかし、これまでの経験上日本企業における『グローバル人材』のハードルは低い!と断言します。
既にチラッと話しましたが、会社によっては英語が得意というだけでグローバル人材扱いをする会社もあるわけです。
そもそも、TOEICの点数などの『英語力』とビジネスに効果的な『異文化間のコミュニケーション能力』は別物と考えておいた方が良いでしょう。
本来であれば、その人の『語学力』『コミュニケーション能力』『海外経験』などを総合的に判断してグローバル人材として国内外で活躍してもらう必要があります。
そして、最終的には会社の経営戦略に対してピンポイントでアウトプットを出せる人材が欲しい。要するに…。
どのレベルの成果をグローバル人材に求めるのか?
それを考慮するだけで、業務遂行に必要なスキルとバックグラウンドがガラリと変わりるわけです。
例えば「海外支社の営業として拡販業務に従事」という明確なタスクがあれば自ずとそこには英語力に加えて現地の言葉が必須になります。交渉や取引の場で異文化間コミュニケーションをスムーズに行う必要があるからです。英語圏以外の国が対象であれば、その国の言語が操れる人材でないと効果的なアウトプットは期待できません。
しかし実際は、グローバル人材の不足が目立つこともあり、企業が求めるタスクに合致する人材を採用できないケースが多い。
会社側が適材適所で人材を選定できない結果として、付け焼刃的なビジネス研修やOJTで『社員をグローバル人材に育成しようとする』のです。
グローバル人材の選び方
最後に。グローバル人材の選定に関しては、具体的に次のようなポイントに着目しましょう:
- 多言語能力の有無(バイリンガル、トリリンガル)
- 長期海外滞在及び留学経験の有無
- 海外企業でのインターンシップ及び就業経験の有無
語学力に関しては、TOEICの点数などよりも多言語の家庭環境(いわゆるハーフやクオーター)に着目します。言語面とセットで『異文化間コミュニケーション能力』を既に日常生活から身につけている可能性が高いからです。
自分がそうだった
また、海外に長く滞在した経験のある人材はとりあえず重宝します。
海外駐在を担うポジションなどは、海外で実際に生活した経験がない人には任せられません。「現地の生活に慣れるだけで一苦労…」という有様では効果的なアウトプットが期待できないからです。
逆に、会社側の『やるべき事』としてグローバル人材に求めるタスクを明確にすることがあげられます。
自分も当時実際に経験しましたが、グローバル人材だからといって何でもかんでも任せようとするのはアウトです。
グローバル人材を本国から海外拠点に派遣した際に、「現地の顧客対応」「ローカルスタッフの管理」「拠点と本社間の折衝業務」等々の仕事を一任させるのはNGです。ピンポイントで効果の得られる職務を与えるべきであり、”スーパーマン”のような働き方を期待すると全てが中途半端に終わり効果が薄いです。
あくまで既存社員の『グローバル人材への育成』にこだわるのであれば、短〜中期的に海外拠点に駐在させるというのも一つの手段です。人材の選定から、研修の延長のような形で地道に投資していくしかありません。
いかがだったでしょうか?
グローバルな人材に関しての明確な定義はなく、やはり日本における「グローバル人材」の捉え方は海外のそれとは異なります。
グローバルビジネスにおける日本企業の国際競争力強化、そしてそれに付随する『国際的視野で通用する社員の育成』という取り組みは。もちろん否定はしません。
グローバルコミュニケーション能力が日本でもスタンダード化される日は、そう遠くはないのです。
若いうちから『海外』に目を向けて、視野の広いグローバル人材を目指しましょう。
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