このブログを書くキッカケになったお話。全10話のシリーズ記事です。
海外経験豊かなハーフがゴリゴリの日系企業に就職してみた。
第5話です!
第1話から読む:
営業部への転属で本当の会社員生活がはじまった!
入社後たった3か月で転属が決まり、営業部へと異動するコダモン。
たった数か月だったけど、お世話になった『にわか上司』のセコさんともお別れ。
…とは言っても、転属先となる部署は目と鼻の先。
営業部は、本社の建物の同じフロアにありました。
ほんの数メートル先
ささやかな送別会で送り出してくれたけれど、『別れ要素』はゼロ。異動自体は味気のないものです。
次の日から、さっそく営業部へ。
今までと同じ時間に家を出て、同じ方向に向かって歩いて、会社の同じフロアに出社。そして、数メートル離れた別の部署へと向かうだけ。
出社したらさっそく新しい同僚のみなさんにごあいさつ。 既に顔見知りだけど、部長さんに紹介してもらいます。
みんな「こんちわー」くらいの感じで、緊張感があるわけでもない。 転属になった実感もあまりない。
この営業部は前の部署よりも伝統があって、社内での認知度も高い。しかも、ウワサによると精鋭ぞろいらしい。
そんな営業部は、部長以下9名の営業マン/ウーマンから成り立っていました。
そして、驚いたことに課長が3人もいた。
同じ役職者が3人も…。これって普通なのか?
役職名に加えて職位(もしくは職級)がある場合は同じ課長でも上位・下位があり、社内異動で役職がカブる場合も1人を『降格』させるわけにはいかず重複します。その結果、中間管理職の数だけが増えて会社の利益と若手の将来を圧迫するのです。
その3人の課長サンは、みんな同年代で同期。
入社してから20数年、さまざまな部署でしのぎを削ってきたベテランの3人です。
転属先の営業部は、この3人の課長で回っているようなものでした。
その他には、係長クラスの人が1人。
そして、新入りのコダモン含めた平社員が4人。
前の部署とは違い、女性社員も2人いました。
おおおー
自分よりちょっと年上の「お姉さん」たち。
それだけで職場の雰囲気が良くみえる。
前の部署は男だらけだったから、フレッシュな感じです。
目にも優しい
そんな営業部に、ドイツハーフが加入。
日本の会社を知るための『修行』がここからはじまります。
ようやく仕事が決まった!
さすが『営業』と名の付く部署だけあって、そこはとても賑やかでした。
電話はひっきりなしに鳴ってるし、出張に出かける人と帰社する人が忙しく出入りしている。
仕事はいわゆる企業間取引全般の営業で、商売の相手は個人の消費者ではなく『会社』。
個人宅などへの『訪問営業』や『飛び込み営業』ではなくて、取引先は法人です。
営業部は社員同士の交流も多くて、前の部署とは違う『活気の良さ』がありました。
なんか楽しそう
そんな営業部では、毎週『朝会』という部内の打ち合わせがありました。
1週間のスケジュールや通達事項、各自が担当するビジネスの進捗具合などを報告する場です。
時に和やかに、時に厳しく。朝会では上司のダメ出しや意見交換が積極的に行われました。
するとさっそく、最初の朝会で『コダモンの仕事』の話になる。
おっ!
ドキドキワクワク。
上司から発せられる言葉に、慎重に聞き入るドイツハーフ。
…。
まず、この営業部で仕事をする目的は「将来的にドイツでビジネスをリードするための土台作り」だと言ってくれました。
これを聞いてホッと一安心。
今回の転属はあくまで期間限定で、『ドイツ語』と『海外経験』を将来的に活かすために、会社が取り計らってくれたのです。
入社を決めた1番の理由でもある『グローバルに仕事をする!』という目標も、長期的にはブレていない。
よしよし
営業部では、まずは国内での営業業務を通して「仕事とはなんぞや!?」を学ぶことになりました。
日本は『営業』の定義が広く、営業マンは販売や価格交渉、接客などの『セールス業』から、市場調査やプロモーションなどの『マーケティング業』までこなし、さらには計画策定やクレーム対応まで一手に引き受ける場合があります。欧米の一般的な営業職と比べても仕事量が多いです。
ベテランが多い営業部は、色々と学ぶためには『うってつけ』。会社のはからいに感謝です。
そしてどうやら、今後の進め方とかおおまかなプランが既にあるらしい。
ほぇー
他人事のように関心。
そんなこんなで、とりあえずは上司のサポートのもと国内顧客の営業担当をしてみることに。
しかし…。
仕事が決まったのは良いものの、ドイツハーフにはさっそく試練が待ち受けていたのです。
営業部の歓迎会でドン引き
仕事が本格的に始まる前に、営業部には色んな意味で驚かされました。
会社の中身に疑問を持ち始めたのも、この頃からです。
まずはコレ。
営業部での歓迎会
飲み会です。
これまで既に飲み会は経験していたけれど、歓迎会として開いてくれた飲み会でガッカリしました。歓迎会を開いてくれた事はもちろん嬉しかったけれど…。
その日は、こじんまりした居酒屋で飲み会がスタート。
最初はみんなワイワイガヤガヤ楽しく食べて飲んでいました。
ハーフの生い立ちとか、ドイツの話とか、入社の経緯とか。酒のアテになるような話をとりあえず一通り聞かれる。
まぁ、ここまでは普通。
すると、お酒のペースも進んでホロ酔いになった上司たちが、そこから『社会人とはなんぞや』みたいな話を始めたのです。
嫌な予感…
案の定、そこからウザいオッサンのからみがスタート。
3人いた課長の1人が、本領を発揮します。
「言葉とか達者みたいだけど、それだけじゃ意味ないからね?」
「ウチの会社のことわからないでしょ? これから大変になるなぁ」
何だそりゃ
歓迎会じゃねぇのかよ?
…と感じつつも、新入りが調子こいてもヤバいので「はぁ」とか「そうですね」とか言いながら聞き流す。
助けを求めるでもなく、同席していた女性社員をチラっと見る。すると露骨に嫌そうな顔をしています。「こいつまたかよ…」が顔に出ちゃってる。
なるほど。この上司は『そういう人』なのか…。周りから明らかに煙たがれてます。
それを知ってか知らずか、どんどん饒舌(じょうぜつ)になる課長サン。
「じゃあ君は、我々はみんな何のために働いてると思う?」
知らねえよ
…とはさすがに言えず、「生活するためですかね」と答えてみる。
日本は何かと働く理由を美化しがちですが、それは『お金』でもいいのです。「自己成長」や「やりがい」の前に、そもそも給料がなければ誰も会社員をしない。仕事で得られる知識や経験は副産物であり、組織に属する人は基本的に『お金ありき』です。
その答えを待ってたかのように、上司が続けます。
「へぇ~じゃあ君はお金のために働くんだ?」
ニヤニヤしながら、こちらを試すような言い草。
めんどくせぇ…
その対応に戸惑っていると、今度は違う課長の出番です。(※ 課長3人います)
酔っ払いながら『仕事のやりがい』とか『サラリーマンたるもの…』とかさんざん語った挙句に、部下の質問に対してこんな返事をしました。
部下:「じゃあもし宝くじで3億円当たったらどうします?」
課長:「え、そりゃあまず会社辞めるだろうな」
はぁ?
「やりがい」どこいった?
ついさっきまでどれだけ会社が好きか散々語っていたのに。結局ソレかよ。
「ガハハハっ!」と上機嫌の上司とは対象的に、まだまだ海外思考だったドイツハーフは飲み会の途中なのにテンションだだ下がり。
これも文化の違いか…
2次会に行く足取りも重く、歓迎会で『不安』になりました。
「ハンコの押し方がなってない!」マンガの展開で笑った
仕事がだんだんと始まり、資料作りとか顧客対応を任され始めた時のことです。
当時は、上司のサポートを受けつつ、とある日系企業の主担当をしていました。
部署内の別の人がこれまで担当していたものを引き継いだ形で、ありがたい事に既存顧客でビジネスも安定している案件。
自分は役職もない平社員なので、仕事を進める中では基本的に何をするにも『上司の承認』が必要です。
日本の職場では何をするにも承認(=ハンコ)が必要です。課長や部長の部署内承認の他にも、資料によっては人事や他部署も含め何個ものハンコが押されます。紙文化を含め、働き方改革の『手続きの簡素化』『デジタル化』の妨げになる原因です。
そんなある日、いつものように見積りを作成して自分のハンコを「ポンっ!」と押しました。
そして、直属の上司である係長サンに「お願いします」と言って見積りを渡す。
一通り目を通してもらい、いくつかの質問に答えてOKが出たら、今度は係長サンがハンコを押す番です。
おもむろにハンコを取り出して捺印をする…かと思いきや、ビックリな事を言われました。
「ハンコの押し方がちょっと雑だなぁお前」
え…
よく見ると、ハンコの角度がちょっとだけ曲がっている。
…ん? これを指摘されてる??
「これじゃダメだよ。作り直してこい」
…what?
マジで?
衝撃でした。
いや、これまでに何度も同じようにハンコを押してきたけれど、このくらいの『曲がり』なんていくらでもあった。
「ハンコの押し方がなってない!」なんて、ドラマとかマンガの世界の出来事だと思ってた。
日本企業には様々な『異文化』が存在していて、中には”お辞儀ハンコ”という文化もあります。 部下が上司にペコリと「お辞儀をしている」ように左斜めに傾けて捺印する事を指します。
この係長サンも、当然これまで何度も見積書を作ってきた人。同じような指摘を上司からされてきたのだろう。
でも、ちょっと一貫性がない。
そして何より、マジでどうでもいい。
いや、これが『社外』に提出する資料だから『しっかり作る』必要があるのはわかります。
もしかしたら、先方にも「何だこのハンコの押し方は!」「失礼だろ!」みたいな人がいるかもしれない。
それも、百歩譲ってわかる。
ドイツハーフがこの時痛感したのは、もっと違う部分。
日本ではこんな事が『大切』なのだ…!
という、根本的なことを痛感したのです。
『ハンコ押し方』などを、社内も社外もみんなひっくるめてビジネスの一環として大いに気にしている。
日本の社会人経験が少ない自分は、どうでも良いことに時間とリソースを無駄にしているようにしか見えませんでした。
これを読んでいる諸先輩方は、「当たり前だろ!」「日本の社会人のマナーだ!」と言うでしょう。
それでも…グローバルスタンダードからかけ離れた日本独特のビジネススタイルです。
うむぅ…
無言でその場を立ち去って、しぶしぶ資料を作り直すドイツハーフ。
しかし…。
そんな事の繰り返しで、だんだん『日本色』に染められていきます。
営業部には尊敬する上司もいた!
そんなこんなで、仕事を進める中で『好き嫌い』が出てきました。
人間だもの
そして、それが一番顕著になったのは上司です。
具体的には、課長職にいた3人。
そのうちの2人は慢性的にウザかった。…と言えばカンタンですが、まぁとにかくクセが強かったです。
社内のキャリアも長くて仕事を熟知した2人ですが、みんなから煙たがられていた。女性社員からは、転属後すぐに「あの2人は気を付けたほうがいいよ…」とアドバイスされたほど。
年功序列と先輩後輩の関係をフル活用して、些細なことに対しても高圧的な態度を取る上司もいました。
日本の職場には、キャリアが無駄に長いだけで「自分は偉い!」と勘違いする上司がいます。下積み時代からコツコツと会社に長く勤め続けた”だけ”で地位を築いた人達。欧米の成果主義とは真逆のシステムであり、実力が伴わない管理職がいるケースもあります。
歓迎会の時からウザかったけど、これも仕事。
上司とあえて仲良くなる必要もないし、気に入られたいとも思わない。あくまで仕事上の付き合いです。職場で働く人は上司も同僚も、結局は『他人』…。
そんな職場で、人間関係の摩擦が生まれるのは当たり前です。
会社員である以上「誰と働くか?」というのは選べない。
しゃーない
そんな中、尊敬する上司にも出会いました。
会社を辞めた今でも、時々その人のことを思い出します。
それは、3人いる課長の1人だったシノハラさん。
とってもお世話になりました。
転属後は係長が直属の上司だったのですが、課長のシノハラさんはすぐコダモンに目をかけてくれて、何かと面倒を見てくれました。
他の上司は「そんな事も知らねぇのか?」とか言ってハーフの社会人の経験のなさを指摘するけれど、シノハラさんは一切そんな事をしなかった。
今思えば、彼はコダモンの『語学力』や『海外経験』という、その会社では非常に珍しいスキルを高く評価してくれていたのです。
恩師
シノハラさんは口にこそ出さないけど、長年の経験から、営業の仕事は結局『誰にでもできる仕事』だと割り切っている人でした。
要するに、ドイツハーフが営業のスキルさえ身につければ、すぐに『会社として必要な戦力になる』と認識してくれていたのです。
部下の長所を把握して、欠点や知識不足をしっかり見抜いてくれる人。
そんなシノハラさんは、職場のムードメーカーでした。
社内の誰からも親しまれるいじられキャラで、他部署にもよく知られる存在。
くだらない話もするし、下ネタで女性社員を引かすのも得意。(これはダメ)
年下や部下にいじられると『おいしそうな顔』をする人で、笑顔で対応できる器量の大きさを持っていました。
(男性)社員の人気者
でも、シノハラさんを尊敬する理由は別にある。
彼は、営業の枠を飛び越えるほど、知識と経験に富んだスゴイ人だったのです。
営業は誰でもなれますが、その中でもエリート達は総じて幅広い知識を持っています。売るモノのプライシング(価格設定)はもちろんのことコスト(費用)に関する深い知識を持ち、製品の原材料・部品の調達から、製造、在庫管理、配送など全てを把握します。
決してイケメンではないし、見た目は50代のオッサンそのもの。でも、どこか愛嬌のあるシノハラさんを尊敬する理由はいくらでもありました。
お客さんに対してはとても低姿勢に、ヘコヘコ仕事をしている…ように見えて、ビジネスで言うべきところはビシッ!!と言う。
社内の打ち合わせでも、彼自身の立場が危うくなるほど勝負する。見ているこっちがハラハラするくらい厳しく意見ができる人。
頼もしい上司
アメとムチをしっかり使いわけて、気を抜くところはしっかり抜く。他部署の飲み会にも率先して参加して、酔っぱらうといじられて笑いを誘う。
みんなに愛されつつ、仕事をさせたらピカイチだったのが尊敬する上司のシノハラさんでした。
…という美談はさておき。
営業部での仕事が『ガチ』になってきた。
仕事も部署の人間関係も一見順調のようだったけど、だんだん雲行きが怪しくなる。
ドイツハーフが会社を辞めたくなってきたのは、この頃からです。
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